あらすじ

――それは、心の物語。

 

「とうとう家までなくなっちゃった……」

 一時は貧乏農家からわらしべ長者にまでのし上がったものの、調子に乗って全てを失った青年・黄地山葵(おうち わさび)。仕事を探して村を出た彼は、「バケモノ」に襲われボロボロの体で森を走り逃げてきた男・煌茂武(きあら しげたけ)と出会い、共に襲われ囚われたた友人・テルミナドの救出を引き受け、ゲミュートにおける対等な戦いの方法である決闘を学ぶ。

 バケモノと対峙したのち、近くの町で家が優勝賞品の決闘大会が行われることを知った山葵は、知り合ったばかりの冴えない絵描き・蒼海仁(おうみ じん)に無謀だと言われつつもこれに挑み、決勝戦の常連である白銀一虎(しろかね かずとら)、モストロ・ルージュと渡り合った。大会は無事終了。一虎に誘われ夕食を取る山葵の前に、二人を探していたという老人・メルクリウス・アートルム(メル)がモストロに連れられて現れる。

 

ゲミュート光の神話

 

遠い昔――

 

遠い昔、世界は一つだった。

全ての人は同じ言葉を話し、獣を狩り、果実を摘み。全てが平和だった。

 

やがて世界には、混沌と悪の邪神と、秩序と正義の神のふたりの神が現れた。

混沌と悪の邪神は瞬く間にこの世界を支配した。

人々は別々の言葉を話すようになり、物の好みは分かれ、獣に向けていた武器を互いに向けるようになった。世界から平和が消え去った。

人々は、秩序と正義の神に助けを求めた。神は彼らをまとめ上げ、共に邪神を討ち払い、封印した。

世界には平和が戻った。人々は、神から授かった知識を使い、村を作り、町を作り、国を作った。

 

 邪神は封印されても何度も蘇り、その度に何故か国を挙げての内戦が起こっていた。

 今、その邪神が八十年ぶりに目を覚まそうとしている。人が多いほど乱れが生じ邪神に付け込む隙を与えると考えたメルは、戦いの心得がある者を何人か集め、人知れず邪神を封印しようと考えていた。

 弱きを助けるため力を求めていた一虎、全ての悪を滅ぼし世界を美しくすることを望むモストロは、メルの考えに賛同した。三人のような立派な意思がない山葵は困惑しつつも、全てを失った今なら何が起こっても得になると考えて、これに乗った。

 かくして、山葵の長い旅が始まったのだった。

 

 その頃、大陸の南にある島では、とある浅葱色の羽を身に纏った少女の命が、儚くもこの世から失われようとしていた。