神話

ゲミュート 光の神話

人間と神格の出会い、古代ゲミュートの成り立ちが記された神話。

 

以下はその冒頭。神話の内容が簡単に纏められている。


遠い昔――

 

遠い昔、世界は一つだった。

全ての人は同じ言葉を話し、獣を狩り、果実を摘み。全てが平和だった。

 

やがて世界には、混沌と悪の邪神と、秩序と正義の神のふたりの神が現れた。

混沌と悪の邪神は瞬く間にこの世界を支配した。

人々は別々の言葉を話すようになり、物の好みは分かれ、獣に向けていた武器を互いに向けるようになった。世界から平和が消え去った。

人々は、秩序と正義の神に助けを求めた。神は彼らをまとめ上げ、共に邪神を討ち払い、封印した。

世界には平和が戻った。人々は、神から授かった知識を使い、村を作り、町を作り、国を作った。


この神話は神の側に立つ人間たちによって作られたもの。「冒涜神話」なるものもあるが、殆どが光の神話の単語を変えただけでしっかりとした内容は無く、どちらかというと神サイドへの難癖付け的な意味合いで作られたものと思われる。成立時期は全く不明。

なお、邪神が現れたのが約3000年前、神が現れたのがそこから1700年前までの間という説が主流。

神獣厄災

神獣厄災が起こったのは、およそ1360~1350年前の約10年間。発端となった邪神の復活から終息までは20年掛かった。この頃から建国までの30年は、神話から歴史への過渡期とされている。

以下は、四神獣の現れから厄災終息までの流れを大まかに纏めたもの。


神は、人間たちに遣いをよこした。

人間たちの発展と平和を願う豊穣と知恵の神「角真珠」、人間を見守り災いを知らせる太陽と予言の神「カローナ・ズヴェズダー」、再び邪神が目覚めし時その魔の手から人間を護る幻の神「昴琥珀」、邪神との戦いで人間たちの力となる戦の神「アルファルド」。獣の姿をし神に仕える彼らを人間は「神従」、或いは「神獣」と呼んだ。

 

カローナは太陽を操りながら運命を眺め、邪神の目覚めの時を見極めた。

角真珠は作物を育てる人間に寄り添い、神に代わって知識を与えた。

昴琥珀は、邪神が封じられた地を幻の霧で包み込み、目覚めに備えた。

アルファルドは眠りにつき、時が来るまで己の力を封じた。

 

最初に邪神が目を覚ましたとき、人間と神獣は力を合わせて邪神を封印した。カローナが邪神の目覚めを伝え、昴琥珀が幻術で人間たちを護り、角真珠が食べ物と戦いの知恵を出し、アルファルドは人間たちと共に邪神を打ち払った。

邪神はあっけなく封印された。

 

しかし邪神は学んだ。次に目覚めたとき、邪神は静かに眠るアルファルドに目を付けた。

邪神はアルファルドを縛って操り、まず太陽を喰わせた。太陽を奪われたカローナは雨を抑えられなくなり、川の水は暴れ、海の水は高い波となって大地を飲み込んだ。人間たちの作物を駄目にされた角真珠は怒り狂い、カローナに雷を落とし、蛇で縛って北の大地に追放した。

邪神は次に、人間たちに互いが敵であるように思い込ませた。国は幾つかに割れ、それぞれが戦の神獣を取り合うようになった。アルファルドは邪神に操られるままそれぞれに力を貸し、世界の殆どを焼き払った。怒れる角真珠もアルファルドを止めるために戦った。カローナもまた、己の名誉と復讐のため角真珠に立ち向かった。

昴琥珀は、ただひたすらに戦の火から弱き者たちを護った。他の神獣を味方にできなかった戦人が自らのもとに現れても、決して力を貸そうとはしなかった。人間を守ることが役割だったからだ。やがて戦人たちは昴琥珀を「臆病者」と強く罵るようになった。昴琥珀は心を病み、人間たちに僅かな幻術を残して姿を消した。世界は幻を失った。

アルファルドから並々ならぬ力を感じた角真珠は、遣いのロス・フレアに探りを入れさせた。ロスはアルファルドを縛り操る糸に気づき、解放した。

 

目覚めたアルファルドは涙を流した。人間たちは互いに斬り合って倒れ、戦うことのできない者は己が放った火に焼かれ、彼らを護るはずの幻の神獣は人間たちを見捨てて姿を消し、太陽と予言の神獣は北の大地に追いやられ、穀物と知恵の神獣の顔に怒りに燃えていた。

何もかもが滅茶苦茶だった。偉大なる神が整えた世界を、自分はたったひとりで滅茶苦茶にしてしまった。とアルファルドは後悔した。

アルファルドは自分を操った邪神を憎み、ひとりで倒そうと立ち向かったが、神はそれを許さなかった。神はアルファルドから無理矢理太陽を吐き出させ、なおも燃え続ける力を封じるため、海蛇のハイドラをよこしアルファルドを飲み込ませた。悔しがったアルファルドはハイドラの心臓を喰って外に出ようとしたが、ハイドラはすでに海の底にいたので、それもかなわなかった。自分はもう何もさせてもらえないのだと悟ったアルファルドは、ハイドラに詫び、失われた心臓の代りをすることにした。

 

神と角真珠は、ケーニヒ・ゲミュートという力強い人間に、善良なる心を持つ人間たちを集めさせた。邪神は、角真珠に追いやられたカローナのもとに、残った悪しき心を持つ人間たちを集めた。ふたりの神とその遣いたちは争い、人間たちは三度邪神を封印することに成功したのだった。

カローナは神に逆らったものとして、人々から憎まれた。再び北の大地へ追放されることになったカローナはたった数人の供の者を連れて、寂しく去っていった。

昴琥珀は戦が終わっても現れなかった。厄災の中で助けられた人々は、再び昴琥珀がこの世界に戻ってくることを願い、白い塔を建てた。

己の誤解で仲間を全て失った角真珠は、たったひとり、人間たちの傍に残った。

 

世界には平和が戻った。しかし、邪神がもたらした悪しき影響は、神と角真珠だけでは埋めることのできない深い深い溝となって、世界に残ったのだった。


アルファルドが太陽を喰らった頃、ちょうどゲミュートでは異常気象による水害や飢饉が発生しており、神話での記述はこれに由来すると考えられている。

 

第五の神獣 キールン

76年のケーニヒ薨去から6年後。82年。混乱が続くゲミュートの大地に、突如キールンという神獣が降り立った。建国から80年以上経っているのもあり、この神獣についての神話は存在しない。全て「歴史」として後の世まで語り継がれているものである。

 

人間と同じような形に、龍の化身のような顔、小さな翼、後ろ向きに生えた小さな角、長い爪、そして煙のような五色の羽衣を身にまとったとても美しい姿をしていたという。華麗に地を駆け、天を舞い、そして海を優雅に泳ぐ。決して生き物を殺したりはしない。

まもなく邪神が復活したが、以後400年もの間ゲミュートでは混乱らしい混乱は全く起こらなかった。人々はキールンが平和をもたらしたと彼に感謝し、彼もまた、平和の使者として神獣厄災の傷跡を癒した。ディアマント地方がゲミュートに参加したのもこの間のこと。

神でさえもこの神獣のことは全く知らず、戸惑いつつも非常に興味を持ったという。

 

493年気味の悪い生き物の死体が発見され、のちにそれがキールンだと判明した。瞬く間にゲミュートの人々の関係は悪化し、504年に国土家が管領に任ぜられるまで戦乱は続いた。

神はキールンの死を嘆き悲しみ、この後からキールンの“再現”に没頭したという。